海洋共育センター様 導入事例

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国家試験をCBTで全国展開。小規模な事務局体制でも成功した、新資格の試験実施

北海道・知床遊覧船事故を背景に、安全統括管理者・運航管理者資格者証に関する試験制度が2025年度からスタートしました。指定試験機関に選ばれたのは、船員育成を推進する一般社団法人海洋共育センターです。

同センターは広島県尾道市の本部と東京事務所のみの小規模な事務局体制ながら、通年実施や離島を含めた全国対応、国家試験ならではの厳格なセキュリティといった高い要件をクリアし、CBTによる新たな国家試験の対応を敢行しました。

その成功の背景には、CBT運営の実績を持つプロメトリックに運営オペレーションを任せる業務連携によって、みずからは「再発防止に資する試験問題づくり」に集中するという役割分担があったといいます。

小規模な事務局体制でも全国規模の国家試験を運営できるCBTの可能性について、一般社団法人海洋共育センター理事長の畝河内 毅(うねごうち つよし)様と、同センター試験事業部長の加藤 隆一様にお話を伺いました。

知床遊覧船事故を契機に求められた安全マネジメントの国家資格化

- まずは、新たに安全統括管理者・運航管理者資格者証に関する試験制度が求められた社会的背景から教えてください。

畝河内理事長(以下、畝河内):遊覧船「KAZU I(カズワン)」の沈没によって多くの方が亡くなられた北海道・知床遊覧船事故をきっかけとして、安全統括管理者・運航管理者資格者証試験制度は生まれました。この事故の主な原因とされたのは「運営会社の安全体制がしっかりできていなかった」という点です。現場任せ、属人的な判断が習慣化していたことが、強く問題視されました。それまでも、「KAZU I」の運営会社は安全統括や運航管理の役割を担う人を形式的に配置していましたが、それらの責務を確証する規定や基準がほとんどありませんでした。結果として、現場の船長に任せきりになり、判断や点検の質が曖昧になっていたのです。

陸上で安全を統括する者と、船長のそれぞれがどう判断するのか、その役割と責任を明確にする制度が必要だという反省から国土交通省は、新たな国家試験制度を設立しました。現在、安全統括管理者は「安全統括管理者試験」、運航管理者は「運航管理者試験」に合格しないとそれぞれの資格者証は交付されません。

- 安全統括管理者資格者証と運航管理者資格者証の取得が義務付けられるのは、人の運送を行う船舶運航事業すべてですか?

畝河内:はい、安全統括管理者試験及び運航管理者試験は、あらゆる旅客船の事故の再発防止に必要な知識と能力を担保するものとして設計されています。ただ、旅客を扱う事業者といっても、たくさんの旅客を運ぶ大型旅客船から、瀬渡し船のように少人数の旅客を運ぶ業者さんまで幅があります。これまでは、そうした多様な事業者に一つのルールを浸透させることが難しかった現実がありました。しかし知床遊覧船事故を経て、誰にとってもわかりやすく、知識や技術の共通基準となる国家資格が必要になったのだと思います。

全国規模で受験の通年開催を担保できる運用が求められた

― 試験実施機関として求められた要件について教えてください。

畝河内:試験は全国のすべての事業者さんを対象にすることが前提にありました。北海道から沖縄・離島まで、どこで事業をされていても、同じように受験の機会を得られるようにすることが求められました。その上で通年実施、複数区分の試験を運用していく必要もあったため、試験実施の要件は高かったですね。

従来の国家試験は、会場や日程が限られ、離島や遠隔地の受験者には長期移動や宿泊が負担となっていましたが、今回の試験制度ではその前提を変える必要があったのです。業界側からも「どこでも、誰でも、平等に受験できるようにしてほしい」という強い要望がありました。そうなると、受験者が日程と会場を柔軟に選べるCBTが合理的な選択肢になります。事業継続に必要な資格を、必要なタイミングで取得しやすくなりますので。

― その中で、海洋共育センター様が試験実施機関に選ばれた理由は何だったのでしょうか。

畝河内:一つは中立性ですね。当センターは、船員不足の問題解消のために船員確保と船員の資質向上に貢献する一般社団法人です。今回の国家試験は旅客船の安全管理の問題ですが、当センターには旅客船の事業者は参加していません。行政からも「旅客船事業者が関わっている団体には託せない」という大前提がありましたが、そこをまずクリアしていたのです。
もう一つの理由は、我々は普段から貨物輸送の現場で、荷主さんの厳しい安全規格に日常的に向き合っている点にあります。安全基準を守ることが前提にある組織ですので、その経験を「事故再発防止に資する試験問題」の作成に活かせるのではないかと考えました。

― 教育・研修を主軸としてきたセンターだからこそ、試験制度と現場の教育をつなぐ役割も期待されたわけですね

畝河内:ただ、実際に試験問題をつくってみて、改めて安全はさまざまな法律やルールにもとづいているということを、我々自身も学び直しました。その上で、「安全基準は現場でどう運用されるべきか」という視点から、この知識は押さえておくべき、といったポイントを整理してきました。

国家試験×CBTで直面したセキュリティと運用設計の壁

― 海洋共育センター様にとってCBTでの国家試験は、初の取り組みですね。

畝河内:国家試験そのものを扱うことも初めてでしたし、CBTも初めてです。試験のスケジュール作成から会場受付、試験の実施、合否判定、合格通知、合格証発行、さらには受験者からの照会対応まで、一連の流れをゼロから考える必要がありました。

加藤試験事業部長(以下、加藤):もうすべてが「高い壁」ですよ(苦笑)。このような試験制度は、海事関係でも前例がほとんどありませんから。どこから手をつければいいのかわからない状態であったのが実情です。特に大きなハードルとなったのが、CBT特有の情報セキュリティ要件でしたね。

畝河内:CBTは、紙の問題冊子を印刷して、封印して、会場に運ぶという従来のやり方とはまったく異なります。電子媒体で試験問題や合格者データを扱うため、セキュリティと中立性の確保がとても重要です。試験情報のやり取りはプロメトリックさん、我々、行政の三者で専用サイトを使って行われましたが、アカウントのパスワードの設定ひとつとっても、今まで経験したことのないレベルの厳しさでした。

加藤:プロメトリックさんや行政とデータのやり取りをする専用サイトは、アカウントのパスワード作成がとにかく大変でした。少しでもセキュリティ上の穴があるとすべてはねられるんです。あのパスワード設定には苦労しましたが、同時にここまで徹底しているのだなと実感しました。

加えて、データの取り扱いも厳しい管理が必要です。データの入ったハードディスクは暗号化した上で、職員が事務所を離れるときは金庫に入れる、PCと外部メディアは完全に遮断する、扱う人間は限定するといった厳しい運用が求められました。そういった細かい規則をクリアしないと、国土交通省の審査に受からないのです。本当に、国家試験として求められる厳格なセキュリティが求められています。一方で、プロメトリックさんは国家試験や大規模試験の実績をもとに、CBTならではの運用をワンストップで支えてくれましたね。

畝河内:プロメトリックさんは、コロナ禍の中でも高度なセキュリティのもとで試験や講習を運営されてきた実績があります。その知見にもとづいて、専用サイトでの問題管理やパスワードポリシー、データフローなど、細かいところまで指導していただきました。おかげで、スケジュールどおりに試験を実施できたことには感謝しています。

小規模な事務局体制でも全国運営を可能としたCBTモデル

― 厳格な国家試験運営を実現できたのは、「自分たちがやるべきこと」と「パートナーに託すこと」を明確に分けたからでしょうか。

畝河内:試験の運営者は、本来であれば運用すべてに携わるものです。ただ、我々は全国に拠点があるわけでも、人員が潤沢なわけでもない。当センターは広島県尾道市と、東京事務所のみの小規模な事務局体制です。事務所機能は最小限にして、限られた人数で再発防止に資する良い問題をつくることに集中する方針を取りました。

加藤:私は以前、全国に事務所を構えて試験も講習も自組織で運営している団体に所属していました。そのような体制と比べると、当センターはまさに対極です。

それでも、プロメトリックさんのCBTを採用したことで、高い水準が求められる全国の国家試験をわずかな人数で運営できています。これは本当に革命だと思いますよ。受付、受験料の徴収、会場運営、受験者の本人確認、システム処理、合格証発行などのオペレーションは、プロメトリックさんがワンストップで担ってくれました。当センターは作問や制度設計と改善に集中できたため、小さな組織でも全国規模のCBT試験が可能になったのです。

畝河内:御茶ノ水にあるプロメトリックさんのテストセンターを見学させていただいたときも、受付からセキュリティ、試験官の配置までを実際に見ることができ、「このオペレーションを全国で対応していただけるなら、我々もやれる」と安心しました。プロメトリックさんがオペレーションを担ってくれたからこそ、我々は本来注力すべき領域にリソースを割けています。

小笠原・石垣・宮古・佐渡などの離島も含めた受験機会の確保

― 離島を含めた全国の受験機会の確保は、大変ではなかったでしょうか。

畝河内:やはり象徴的なのは小笠原諸島ですね。行くだけで相当な時間がかかりますし、「いつ帰ってこられるかは不確実」という場所です。ここでどうやって試験を実施するのかは、最初から不安でした。

加藤:船の運航本数が少ない小笠原諸島は、東京と島の往復だけで一週間はかかりますからね。そのため、小笠原諸島の方々に「本土まで出てきてください」というわけにはいきません。そこで活きたのが、プロメトリックさんのCBTを採用したことで利用可能になった全国の会場のネットワークでした。

畝河内:プロメトリックさんは、常設会場ではないものの、試験実施が叶う環境をさまざまな地域に用意しているんですね。沖縄県の石垣島や宮古島、新潟県の佐渡島などは地場の運営企業さんによって常設会場が用意され、不定期でさまざまな試験が行われています。一方、小笠原諸島では、本土側の試験運営企業が機材と監督員を持ち込む「出張会場」として開設しています。

加藤:離島ならではのトラブルもありましたね。船の設備トラブルによる運航遅延によって、試験運営スタッフが予定していた試験日に間に合わないというケースも実際にありました。そのときもプロメトリックさんが受験予定者一人ひとりに連絡し、試験日を当初予定していた土曜日から日曜日に振り替えて全員受験していただくなど、現地事情に即した対応を行ってくれました。

畝河内:離島対応は元々大きな不安要素でしたが、具体的な対応法を見せていただきましたし、実際にほとんどの地域で受験機会を提供できることがわかりました。これは長年、CBTを実施してきたプロメトリックさんのネットワークがあって初めて叶うものですね。

データと現場の声で磨き続ける再発防止のための試験問題

― 運用開始後の試験問題の見直しについても教えてください。

畝河内:試験問題の品質管理は重要です。1年ほど実施した試験のデータをもとに、次年度では問題の見直しや質の向上、新しい問題への差し替え作業を進めています。試験問題は、当センターの検討委員会で何度も読み込んでいますし、統計的な見地から、解答の偏りや正答率、合格率などを分析中です。この試験制度は「最低限必要な安全基準をクリアするラインをどこに引くか」が重要なカギとなるのですが、それが簡単ではないのです。これからも設問の改善を続けています。

加藤:すべての問題を見直していると、問題ごとの回答時間が長い・短い、正答率が高い・低いなど、いろいろなデータが見えてきます。その中で印象的だったのが、正答率が極端に低いのに、「船員としては間違っていないよね」と感じられる問題があったことです。シーマンシップとしてはむしろ望ましい行動を選んだ方が多くおられました。

畝河内:そうなると、これは本当に不正解と言いきれる問題なのかと、こちらも考えさせられます。解釈の余地が大きすぎる設問は、出題の仕方を見直さないといけませんし、人間の行動として自然な選択をどこまで許容するかというバランスも重要です。そうしたことを、回答傾向の分析を通じて学ばせてもらっています。この試験制度の目的の根幹は、船の安全運航の向上に試験や更新講習が貢献し続けることです。試験は合否を分けるだけでなく、現場の安全文化を支える仕組みでなければいけません。その視点を忘れずに、問題の傾向を読み取りながら改善していきたいと思っています。

小規模な事務局体制であってもCBTで試験の全国展開は可能

― 厳格な試験の運営を検討している他の団体にも、CBTの導入はおすすめできるでしょうか。

畝河内:試験の運営は本当に大変です。私たちも初めての国家試験は不安だらけでした。ただ、CBTを前提に、プロメトリックさんと一緒に運用を組み立てていくことで、全国各地、通年で受験機会を提供できる体制はできました。我々のような小規模な事務局であっても試験問題の内容に注力でき、全国展開ができているという事実は、ほかの団体さんの参考にもなるのではないかと思います。プロメトリックさんのCBTを採用・連携しながら運用を設計すれば団体の規模に関わらず、全国展開は十分に可能だと感じました。

加藤:たぶん、プロメトリックさんがお付き合いしている組織の中でも、我々は最小クラスだと思います。小規模の組織であってもCBTを活用すれば、ここまでできるのか、という驚きがあります。それまで国家試験の試験日は年1~2回が当たり前でしたが、今は平日を中心に、受験者の都合に合わせて受けられます。受験者にとっても大きな変化ですし、まさに革命といえるのではないでしょうか。

国家試験の先にある更新講習と学びの循環

― 今後の更新講習や教育訓練についての構想も教えてください。

畝河内:今回の国家試験は、有効期限10年の資格を与える、いわば入口です。資格者証取得後も2年ごとの更新講習の際に、新たな事故やトラブルの情報、最新の情報を踏まえた運用面の変化を当センターからきちんと受講者に伝え、安全への意識を向上し続けてもらわなければなりません。なお、更新講習はインターネットを使った映像講習など、どこにいても受けやすい環境をつくる想定です。いつでも・どこでもアクセスできる講習にすることで、最新の知見をタイムリーに届けられるようにしたいですね。

加藤:試験とその後の更新講習をきっかけに、スキルアップや初心に立ち返る機会も提供し、船の安全な運航体制の維持・向上につなげていくことが私たちの任務です。そこでも、プロメトリックさんのシステムやノウハウを活用させていただければと考えています。

畝河内:我々の目的は、悲惨な事故の再発防止であり、悲劇を繰り返さないことです。この思いを色褪せさせないためにも、専門的な知見を活かした良い試験問題を作り続け、更新講習と組み合わせて、安全文化を現場に根づかせていきます。行政と我々、そしてプロメトリックさんと一緒に、運用を改善し続けながら、船の安全をしっかり担保していければと思います。

今回の取材にご協力いただいたお客様

一般社団法人海洋共育センター

理事長 畝河内 毅 様
試験事業部長 加藤 隆一様

安全統括管理者・運航管理者資格者証 試験制度
安全統括管理者試験及び運航管理者試験 予約ページ

取材日:2026年2月25日

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